ヘッジファンドの投資戦略は、公募ファンドと異なり運用上の法的制限をほとんど受けない自由度の高いものであるため厳密に分類できない場合も多く、また分類方法もいくつか存在するようですが、よく用いられる投資戦略について記載します。
1.相場志向型
・ロングショート
昔からよく使用されている伝統的な投資戦略です。
割安と考えられる株式を買い、同時に割高と考えられる株式を空売りし、株価が修正された時点でポジションを解消して利益を得る投資法です。
相場全体が大きく動いても、片方のポジションがヘッジの役割を果たすので、一方的損失を被るリスクが低いという特徴があります。
ロングとショートはそれぞれ同じ業界・業種の銘柄で組み合わせて、ヘッジ効果を高めるのが一般的です。
近年は、ETFなどの空売りを含む金融派生商品をヘッジ以外の目的で利用することが可能となったため、普通の投資信託でも採用されることが増えております。
・マネージド・フューチャー
マネージド・フューチャーは、その運用元の商品投資顧問業者(Commodity Trading Advisor)の頭文字をとってCTAとも呼ばれています。
金融工学や統計学をベースに、コンピュータで先物をはじめとする様々な金融商品の値動きの流れ(トレンド)を解析し、分散投資することで相場の上げ下げにかかわず、上下どちらに振れても収益を狙うトレンド・フォロー型の運用手法です。
日本では円ドル相場と株式先物の関係で引用されることが多いですが、実際には原油、穀物を始め世界中のあらゆる指標からそれぞれの相関関係を高速コンピュータで割り出して売買しています。
・グローバル・マクロ
単にマクロとも呼ばれ、世界中の国や地域の主要経済トレンドや政治的見通しを重視し、各国の経済、金利、為替などのマクロ指標の予想に基づき機動的にグローバルな投資を行う運用手法です。
ヘッジを効かせた投資法ではないため、投資分散のための選択肢のひとつに使われる場合も多い手法です。
アメリカの著名投資家ジョージ・ソロス氏のクオンタム・ファンドが、1992年に英国ポンドを暴落させて巨万の富を得た際に使用された投資手法でもあります。
2.運用特化型
・マルチストラテジー
多くの運用戦略に分散投資して、広くリスク分散を図る運用手法です。
一般には、ファンドオブファンズ(たくさんのファンドに分散投資しているファンド)形式で分散投資を行うことが多いようです。
大規模なヘッジファンドの場合、ひとつの投資戦略での運用は難しいため、この戦略がとられるようです。
・イベント・ドリブン
イベント・ドリブンは、企業のM&Aなどのイベントが起きる際に株価のミスプライスを収益機会にする投資戦略です。
企業の合併、買収、業績の大幅修正、規制改正等の業績への影響といった企業価値に影響を与えるような出来事(イベント)が正確に市場価格に反映されるまでにタイムラグが存在することで発生する株価の歪みを投資機会とし、歪みが解消される過程での収益獲得を狙うとする投資手法です。
・ディストレス
財務危機に陥った企業の株式や債券、不動産などの資産に投資して、その後の収支改善や再生ファンド介入などで価格が回復したときに売ることで利益を得る投資手法です。
経営再建が失敗した場合などには、投資資金の回収が難しく、大きな損失が生じてしまうため、通常の投資とは異なる高度な知識や経験が必要となります。
代表例としては、アルゼンチンのデフォルトやギリシャ危機などの際に国債を大量に買い集め、その後の和解で多額の利益を得たケースなどが知られています。
3.裁定取引型
・アービトラージ
日本語で裁定取引と訳される、広く知られている投資手法です。
転換社債と株式、債券、M&A時などの一時的な価格乖離を狙います。
一時的に非合理的な価格をつけているものに対して、割高なものを売り、割安なものを買うことで利鞘を得る投資手法です。
・フィックスト・インカム
フィックスト・インカムは、債券や金利先物で利幅が乖離する割高な銘柄を売り、割安なものを買うことで利鞘を得る投資法で金利系の資産に特化したものです。
ただ、市場では常にこのような裁定が働くのでその乖離は非常に小さく、すぐ解消に向かうため利幅は限られます。
・レラティブ・バリュー
レラティブ・バリューは、株式と転換社債など似通った金融商品で、割高・割安なものを売買する点でアービトラージと似ていますが、アービトラージがミスプライスに注目するのに対し、レラティブバリューは価格がいずれ適正な値に収束するとの考えに立った投資戦略です。
以上が代表的なヘッジファンドの投資戦略です。
中にはヘッジファンドに限らず、一般的に広く知られている投資戦略も含まれていたと思います。
最近のヘッジファンドは、ヘッジファンドへ投資する投資家の中心が、個人の富裕層から機関投資家へとシフトしてきたことに伴い、運用姿勢を、高いリターンをひたすら追求するハイリスク型の運用から、収益率のボラティリティを抑えながら安定的なリターンの獲得を目指す運用へと変化しているそうです。
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